愛 (文学の冒険シリーズ) posted with amazlet at 12.05.31 ウラジーミル・ソローキン 国書刊行会 売り上げランキング: 415764 Amazon.co.jp で詳細を見る とにかく「ロシア文学」というジャンルに対しては、重い、暗い、登場人物の名前が覚えられない……などツラいイメージがありますから(それらの多くはドストエフスキーによるものと思われますが)、このウラジミール・ソローキンという現代ロシア文学の注目株が書いた『愛』という短編小説集には、どれほど重く、切ない愛模様が描かれているのだろう……と期待したくもなります。が、その期待はすぐさま裏切られることでしょう。ヴィクトル・ペレーヴィンといい、ソローキンといい、現代ロシアの作家にはマトモな人はいないのか!? 「ソローキンはヒドい(良い意味で)」という前評判は聞いていましたが、いやあ……ちょっと、ここまでとは。これまで色んなテキストを読んできましたけれど、これまでに読んだどんなものよりも衝撃の作品でした。 『愛』に収録された多くの作品は、ごく日常的なプロットによって開始されます。そこには当時のソヴィエト連邦という社会体制特有の描写、社会の仕組みの現れもあり、とても面白い。老人たちが語る昔話のなかに、独ソ戦の記憶も浮かび上がる。このあたりは社会派、にも見えてしまい、現代的な作家だ、という感じがする。しかし、ソローキンのヒドさとは、そうした物語的なものを、スカトロ、死体愛好、人体破壊……などなど、説明しきれないほどスキャンダラスな要素によって、突如ブチ壊し「な、なにが起こったの、いま……」と読み手を呆然とさせるパワフルなところにあります。さすが「モンスター」と称されるだけある。マイルドな脱臼によって、ブラックな笑いへと着地している作品もありますが、大概が破壊的に終わっています。突然ウンコ食べ始めたり、突然おじいちゃんがヤギになったりするんだよ! ソローキンのご尊顔。Youtubeにはインタビュー動画もありました。 中原昌也と読み味は似ているかもしれないし、カフカのような不条理小説のようにも読めてしまう。けれども、この衝撃は、それらとは全然違っている。もっと不気味で、放送事故的というか……。まず、こんなヒドいものを...