フィレンツェ史(上) (岩波文庫) posted with amazlet at 12.07.31 マキァヴェッリ 岩波書店 売り上げランキング: 89681 Amazon.co.jp で詳細を見る フィレンツェ史(下) (岩波文庫) posted with amazlet at 12.07.31 マキァヴェッリ 岩波書店 売り上げランキング: 146456 Amazon.co.jp で詳細を見る まさか、マキャヴェッリの名前を知らない人はおりますまい。『君主論』という現在ではサラリーマンの自己啓発本のネタにさえ使われる有名な本を書いた政治思想家の彼は、フィレンツェの官僚としても従事しており、この『フィレンツェ史』という上下で1000ページほどのマッシヴな歴史書は、フィレンツェを支配していたメディチ家出身の教皇クレメンス七世から依頼され書かれたものでした。冒頭は「ゲルマン人が攻めて来たぞ〜!」という山川の世界史教科書でいっても最初のほうのページから話が始まり、およそ1000年の時の流れを一気に振り返ります。マキャヴェッリの記述は現代の歴史考証的には誤ったものもありますが、そこには逐一括弧書きて訂正が入っているので親切。メインになるのは14世紀半ばからのフィレンツェで起こった政治抗争と対外戦争についてです。 本書が語るフィレンツェの歴史は、ざっくり言ってしまえば戦争に次ぐ戦争、内乱に次ぐ内乱、陰謀に次ぐ陰謀……という感じであって、ルネサンス期のイタリアの華々しいイメージとはかけ離れた記述が続きます。なにが文芸復興だ、と言わんばかりの血で血で洗う争いの連続。教皇派(グエルファ党)と皇帝派(ギッベリーナ党)との対立や、貴族・豪族・市民・職業組合といった階級闘争、メディチ家がフィレンツェの実権を握ってからもクーデターを企てるものが後を絶たず、民衆が普通に武装していた時代の恐ろしさを感じざるを得ません。今で言うと、気に食わないことがあったらノリで武装した有権者が千代田区にひしめき合ってしまうような感覚でしょうか。近代に入って、軍隊や警察権力が中央集権され、暴力装置として機能する、というカール・マルクスの描いた社会は、暴力が民衆から奪われたことによって去勢された、だけ...