旨いものはうまい (グルメ文庫) posted with amazlet at 16.09.17 吉田 健一 角川春樹事務所 売り上げランキング: 36,831 Amazon.co.jpで詳細を見る 英文学者、吉田健一による食や酒に関するエッセイをまとめた文庫本。この人の食エッセイを読むのは初めてだったのだけれど「どこそこのなんとかが旨い」、「あれを食べるのであればどこそこのものじゃなければならない」的なウンチクは皆無であって、もちろん、洋行で得た当時の日本人としては貴重な体験談が豊富に詰まっているとはいえ、いわゆる「グルマンディーズ」の文章ではない。筆者が書いている食に関する感覚は、庶民的とさえ言え「酒(日本酒)にあう肴は、白飯にも合う」だとか共感できる部分も多くて面白かった。 あと、戦中・戦後に食べるものが手に入らなかった時期に食べたものの話なんかが、すごく良くて。「人間は食つてゐなければ死んでしまふのだから、食はないで食つた振りをしなければならない通人などといふものになるのには、特殊な技術を身につけてゐなければならないのだらうが、食ひしんばうでだけはありたいものである。食ふのが人生最大の楽みだといふことになれば、日に少くとも三度は人生最大の楽みが味へる訳である」など至言も盛りだくさんである。 まぁ、とにかくすごい酒飲みだったみたいであるけれど、こういう人の感覚は信用できる。食べる楽しみを知っている人。