バッハ:フーガの技法posted with amazlet on 08.01.27エマール(ピエール=ロラン) バッハ
ユニバーサル ミュージック クラシック (2008/01/23)
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現代音楽グループ、アンサンブル・アンテルコンタンポランのメンバーとして活躍し、現代音楽のスペシャリストとして知られる技巧派ピアニスト、ピエール=ロラン・エマールの新譜はなんとJ.S.バッハの《フーガの技法》。ドイチェ・グラモフォンにレーベル移籍第1弾ということもあり、これはかなり意外なところを突いてくるリリースだった。
楽器指定がなされていないこの作品にはさまざまな演奏があるが、ピアノ演奏ではゾルタン・コチシュによるものの印象が強い(ちなみにピアノ演奏以外での個人的なお気に入りは、ジュリアード四重奏団による弦楽四重奏版だ)が、コチシュの演奏がロマン派的な態度で演奏に臨んだものだったのに対して、エマールの演奏はもっとシンプルな取り組みとして聴こえてくる。コチシュと違い、エマールの演奏からは「バッハ=崇高な対象」というイメージが響いてこない。むしろ、そのようなイメージをすべて取り払ったところから彼は楽譜を読み始めているのではないだろうか。
あたかもエマールが《フーガの技法》という作品を「何の特別なところのない学生がついさっき書いてきた、いまだ価値付けられていない作品」のようにを取り扱って演奏解釈をおこなっているような、そんな軽やかささえ感じる。基本的にテンポは速く、突飛なルバートや激しい歌い方をエマールはおこなわない。エマールが彫りだしたバッハ像に、手垢がついてない印象を抱くのはそのような「解釈の洗い方」にあると思う。
しかし、もちろんただ単に常套句的な演奏を展開しているだけではない。むしろ、態度をシンプルに研ぎ澄ましているからこそ、マニアックなところへのこだわりが深まっている点というのも存在している。例えば、ピアノの調律などについてエマールは平均律を選択せず、特殊な調律を選択しているらしい。ただ、このチューニングについては未詳。ここでエマールが純正律を選択しているのだとしたら、たしかに純正律っぽく響いているかもしれない……よくわからないが……。
また、全体的に短くスタッカート気味に演奏されているところも印象的である。これは各声部を分解するように響かせるような効果を生み出しているのだが(しかし、これはピアノによるバッハ演奏における近年の流行のひとつかもしれない)、そこを解析/分析的な演奏でとどめておかない点にエマールの巧みさがあるのだろう。
バッハとは無関係だが、Youtubeにあがっていたエマールによるメシアン。圧倒的な速さ、圧倒的なパワー、圧倒的な正確さで愉悦する《喜びの精霊たちのまなざし》。
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