スキップしてメイン コンテンツに移動

相対化される音楽



 相変わらずWILCOの『Sky Blue Sky』の新譜を聴いているところで、聴けば聴くほど素晴らしいアルバムだなぁ、と染み渡るようだ。シカゴっぽい音を指向していた前二作から、ポップなものへと回帰していた感じは、日本で言うとくるりも似た道を辿ってきてるようにも思う(っていうか今くるりの『アンテナ』を聴くとかなりWILCOっぽく聴こえる、ってだけでそんな風に考えてるんだけど)。


 聴き続けていて気がつくことは、今回のアルバム製作時に加わった新メンバーがバンドの音楽に極めて不思議な効果を与えている、ということ。とくにギターで入ったネルス・クラインがすごい。私はこの人のことを全然知らなかったんだけど、調べてみるとフリー・ジャズ出身の人だそう。「どうりで……」と思うのは、この人のギタープレイがバンドの持っているタイムと全然違う感じで異物感満載に響いているところである。

 バンドがロックらしいスクエアなビートを刻んでいるところで、ネルス・クラインの浮遊感のあるタイム感でソロをとる時(テクニックがありすぎて自由にやりすぎてる、みたいに聴こえる)、「バンド対ネルス・クライン」というような相対的関係が生まれているのがとても興味深い。くるりに渡辺香津美*1が加入したらこんな感じになるんじゃなかろうか……そんなの誰が喜ぶかわかんないけど、見てみたい(見た目的にも面白いから)。



D


 渡辺香津美の映像を探していたら出てきたとんでもない映像。タンザニアのバンドと日本のジャズメン、あと林英哲のセッションの模様だそう。ジャズ陣営のメンツが山下洋輔、渡辺香津美、バカボン鈴木、そして今をときめく菊地成孔(1992年の!髪もフサフサ!!)だというのだから驚いてしまう。山下洋輔のピアノがアフリカンなリズムと異常に馴染んで響いてくるのに、渡辺香津美がソロをとる時の違和感はなんだろう、と思う。黒人の国に、一人日本のセールスマンが迷い込んできたような、そんな図。


 話が大幅にそれてしまったけれど、WILCOの新譜には「こういう新メンバー加入のさせ方もあるのだなぁ」と感心させられている、ということが言いたかった。




*1:ところでこのギタリスト、ジャズ界隈では今一番扱いが微妙な人になってる気がする





コメント

このブログの人気の投稿

石野卓球・野田努 『テクノボン』

テクノボン posted with amazlet at 11.05.05 石野 卓球 野田 努 JICC出版局 売り上げランキング: 100028 Amazon.co.jp で詳細を見る 石野卓球と野田努による対談形式で編まれたテクノ史。石野卓球の名前を見た瞬間、「あ、ふざけた本ですか」と勘ぐったのだが意外や意外、これが大名著であって驚いた。部分的にはまるでギリシャ哲学の対話篇のごとき深さ。出版年は1993年とかなり古い本ではあるが未だに読む価値を感じる本だった。といっても私はクラブ・ミュージックに対してほとんど門外漢と言っても良い。それだけにテクノについて語られた時に、ゴッド・ファーザー的な存在としてカールハインツ・シュトックハウゼンや、クラフトワークが置かれるのに違和感を感じていた。シュトックハウゼンもクラフトワークも「テクノ」として紹介されて聴いた音楽とまるで違ったものだったから。 本書はこうした疑問にも応えてくれるものだし、また、テクノとテクノ・ポップの距離についても教えてくれる。そもそも、テクノという言葉が広く流通する以前からリアルタイムでこの音楽を聴いてきた2人の語りに魅力がある。テクノ史もやや複雑で、電子音楽の流れを組むものや、パンクやニューウェーヴといったムーヴメントのなかから生まれたもの、あるいはデトロイトのように特殊な社会状況から生まれたものもある。こうした複数の流れの見通しが立つのはリスナーとしてありがたい。 それに今日ではYoutubeという《サブテクスト》がある。『テクノボン』を片手に検索をかけていくと、どんどん世界が広がっていくのが楽しかった。なかでも衝撃的だったのはDAF。リエゾン・ダンジュルースが大好きな私であるから、これがハマるのは当然な気もするけれど、今すぐ中古盤屋とかに駆け込みたくなる衝動に駆られる音。私の耳は、最近の音楽にはまったくハマれない可哀想な耳になってしまったようなので、こうした方面に新たなステップを踏み出して行きたくなる。 あと、カール・クレイグって名前だけは聞いたことあったけど、超カッコ良い~、と思った。学生時代、ニューウェーヴ大好きなヤツは周りにいたけれど、こういうのを聴いている人はいなかった。そういう友人と出会ってたら、今とは随分聴いている音楽が違っただろうなぁ、というほどに、カール・クレイグの音は自分のツ...

2011年7月17日に開催されるクラブイベント「現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」のフライヤーができました

フライヤーは ナナタさん に依頼しました。来月、都内の現代音楽関連のイベントで配ったりすると思います。もらってあげてください。 イベント詳細「夜の現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」

リヒテル――間違いだらけの天才

 スヴャトスラフ・リヒテルは不思議なピアニストだ。初めて彼のピアノを友達の家で聴いたとき、スタインウェイの頑丈なピアノですらもブッ壊してしまうんじゃないかと心配になるぐらい強烈なタッチとメトロノームの数字を間違えてしまったような速いテンポで曲を弾ききってしまう演奏に「荒野を時速150キロメートルで疾走するブルドーザーみたいだな」と率直な感想を持った。そういう暴力的とさえ言える面があるかと思えば、深呼吸するみたいに音と音の間をたっぷりとり、深く瞑想的な世界を作りあげるときもある。そのときのリヒテルの演奏には、ピンと張り詰めた緊張感があり、なんとなくスピーカーの前で正座したくなるような感覚におそわれる。  「荒々しさと静謐さがパラノイアックに共存している」とでも言うんだろうか。彼が弾くブラームスの《インテルメッツォ》も「間奏曲」というには速すぎるテンポで弾いているけれど、雑さが一切ない不思議な演奏。テンポは速いのに緊張感があるせいかとても長く感じられ、時間感覚をねじまげられてしまったみたいに思えてくる。かなり「個性的」な演奏。でも「ああ、こんな風に演奏しても良いのか……」と説得されてしまう。リヒテルの強烈な個性の前に、他のピアニストの印象なんて吹き飛んでしまいそうになる。  気がついたら好きなピアニストの一番にリヒテルあげるようになってしまっていた。個性的な人に惹かれてしまう。こういうのは健康的な趣味だと思うけど、自分でピアノを弾いている人の前で「リヒテル好きなんだよね」というと「あーあ、なるほどね」と妙に納得されるような、変な顔をされることがあるので注意。 スクリャービン&プロコフィエフ posted with amazlet on 06.09.13 リヒテル(スビャトスラフ) スクリャービン プロコフィエフ ユニバーサルクラシック (1994/05/25) 売り上げランキング: 5,192 Amazon.co.jp で詳細を見る  リヒテルという人は、ピアニストとしてだけ語るには勿体無いぐらいおかしな逸話にまみれている。ピアノ演奏もさることながら、人間としても「分裂的」っていうか、ほとんど病気みたいな人なのだ(それが天才の証なのかもしれないけれど)。「ピアノを弾くとき以外はロブスターの模型をかたときも手放さない」だとか「飛行機が嫌いすぎて、ロシア全...