檀 一雄
中央公論新社
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戦中から敗戦直後の中国で、報道班員として活動していた頃の壮絶な体験もサラリと書いているのがすごい。なにしろ冒頭から中国兵と日本兵の死体の見分け方からはじまるのだ。それと食べ物の話が並列されて綴られることに、食べる、ということが、まっすぐに生死と繋がっていることを思わせる。「◯◯という地方の××が美味いらしいゾ」と聞けば、途端に家を飛び出して食べに行ってしまう、そういう冒険心を檀一雄は忘れなかったようだけれど、その思い切りの良さは、そうした中国での経験も大きく影響してるんじゃないか、とも思った。
読んでいると腹が減る本は良いグルメ本だと思うけれども、これは、なんというかそれ以前の「グルマンディーズとはなにか」「食客とはなにか」というところを問いかけてくる気がするね。もはや死語となったインターネット上のスラングを使うとするならば、ギザ貪欲、って感じであって、それだけで尊敬に価する。ヨーロッパやアメリカはもちろん、中国の奥地だとかいろんなところでホントにいろんなものを食べている。
それから交流のあった作家のエピソードなんかも読んでいて大変に笑ってしまった。とくに太宰。太宰と檀はしょっちゅう連れ立って酒を飲み、一緒に女を買いに行く仲だったそう。「太宰治と二人新宿を歩いていたところ、太宰は道端に売っている夜店の『毛蟹』をおそれげもなく一匹買い、それをまっ二つに割って、半分は私にくれ、そのまま町を歩きながら、手掴みで、ムシャムシャと喰いはじめた」とある。
道端で毛蟹が売っている新宿の風景もなかなか想像がつかず、食べ物から、そうしたソフィスティケイトされていない日本というか、野蛮な東京の風景みたいなものも窺い知れるなかなか深い本でもある。いや、それにしても、新宿で毛蟹を手掴みで食べている人、中国人観光客以上にワイルドだな……、太宰よ。
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