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押井守監督作品『スカイ・クロラ』




オリジナル・サウンドトラック 「SOUND of The Sky Crawlers」
サントラ CHAKA
VAP,INC(VAP)(M) (2008-07-25)
売り上げランキング: 49


 押井守の新作。「この作品で新境地を……」と聞いていたものの、物語はこれまでの押井作品と同様のテーマを変奏したものであるところに変わりはない。ゲームのような現実と、現実のようなゲームの繰り返しのなかで生まれる実存的不安――これらは『パトレイバー』にも『甲殻機動隊』にも見られた主題だから、目新しいものを期待してしまうとがっかりするかもしれない。個人的には『AVALON』に最も近いのでは、て思う(結末はほとんど正反対だが……*1)。


 そういえば、『スカイ・クロラ』のなかでポーランドらしき街並みが登場するが(レストランで分かりやすくショパンが流れていたりする)、『AVALON』もロケ地がポーランドだったはずだ。どうでもいいけど。

 映画の感想としては、こちらのエントリを書かれたacidtankさんと概ね同じ。とにかく主演の2人、加瀬亮と菊地凛子がひどすぎて、観ていてすごく辛かった。あまりに違和感がありすぎ「コイツらだけが特別な存在(キルドレと呼ばれる『永遠に老いることのない子どもたち』)だから、あえてこういう演出なのか……?しかし、それは正解なのか?」と思ったけれど、中盤あたりで「え!?コイツらも全員キルドレなの!?」という悪い驚きもあったぐらい。この2人、押井守極右派のファンに戦犯扱いされても当然だと思った。誰が彼らをメインキャストに選んだか、については色々と難しい問題が絡んでいそうである*2


 あと「他人に干渉をしない」、「自己主張をしない」型の主人公ってなんか飽和感があるよなぁ……って思ったりした。


 しかし、子どもが娼館に行ったり、タバコを吸ったり、ワインをガブ飲みしたり、ポルシェ911をぶっ飛ばしたり、そして戦闘機に乗って人殺しをおこなったり……っていうおおよそ子ども的とは呼べない行動を取っている映像はなかなか印象深いものがある。




*1:ただ草薙水素を中心に据えてみれば、正反対ともいえない


*2:「やっぱ、メインは話題性がある人じゃないとねぇー」とか主張する悪いプロデューサー的な人がいたりとか





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