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ニコラウス・コペルニクス『天体の回転について』




天体の回転について (岩波文庫 青 905-1)
コペルニクス
岩波書店
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 いわゆる「コペルニクス的転回」をもたらしたニコラウス・コペルニクスの『天体の回転について』。岩波文庫に収録されている日本語訳では、全6巻のうち、第1巻を訳出したものを読むことができる。2010年になって重版されたものであるが、旧漢字が使用されているため幾分読みにくい。しかし、日本語自体は読みやすいので、60ページほどしかない訳出部分は旧漢字に慣れてきた頃には読み終えてしまう。天動説から地動説へ。コペルニクスは旧来の宇宙観の間違いを指摘しながら「こうすれば、数学的/幾何学的に正しい天体の運動法則を導き出せる!」と言っているのだが、そこで否定される「旧来の宇宙論」のほうも興味深い。例えば季節によって惑星の大きさが異なって見える理屈を「離心円」(地球が、惑星の回転軸となる中心からちょっとズレたところに位置している、という説)によって説明されていたなど、いろいろと関心させられてしまう。





 この文庫版の半分は、訳者による解説で占められているが、それがとても充実している。宇宙論の誕生から、コペルニクスに至るまでの変遷、その後の発展までが通史的に書かれており、大変勉強になる。また『天体の回転について』の出版に伴い、コペルニクスが当時の法王パウルス3世にあてた手紙もここには収められている。その内容は「ワスが突然、こんなことを言ったらみんなびっくりすると思うけども……」という大変気を使ったものだ。まぁ、なんか大変だったのだなぁ……と思う。何十年も新説を秘密にしつつ、晩年になって「えいやっ!」と出したコペルニクスは「慎重すぎる!」と仲間内からは非難されたらしいけれど、仕方が無いことである。その後、コペルニクスの説を擁護したジョルダーノ・ブルーノなんかは火刑に処せられてるのだし。





プトレマイオスによる巡行・逆行運動

 「離心円」による惑星の運動についての説明はこのサイトが詳しい。コペルニクスの生涯については、アイルランド出身の作家、ジョン・バンヴィルが小説にしている*1が、小説よりもコペルニクス自身が書いた論文のほうが面白いと思った。






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