スキップしてメイン コンテンツに移動

夜の現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン @三軒茶屋 Hell’s Bar



A6(100x148)-TT-omote


拙い進行で申し訳ありませんでしたが、無事、終了いたしました。まずはご来場いただいたお客さまに感謝いたします。ありがとうございました。終演後幾人かのお客さまより「次も楽しみにしています」とか「楽しかったです」といったお言葉をいただけたので、一安心(高校生のお客さまから『将来、こういうイベントを自分も開きたいんですが、どうすれば良いのでしょう?』と質問されたのには、なるほど、自分はもう進路相談とかを普通にされちゃう年なのだな、と感慨深くなってしまいました)。





「普段聴いている環境とはまったく違うから新鮮に聴こえた」、「ピンチョンの小説世界そのままで笑った」と当初の狙い通りの感想もいただけたのも良かったです。音楽を語る言葉は満ち溢れていて、ほとんど飽和していると言っても良い状況にあるにも関わらず、現代音楽を聴取する環境はあまりにも限定されている……という問題を《場所》と《時間》を設定することで、ちょっとでも変えることができるのではないか、という意図は成功したと言えるでしょう。ともあれ、このイベントの成功は選曲から内容のコーディネートまでご協力いただいた松平敬さんの力あってのものです。感謝の言葉はいくらあっても足りないぐらい。4時間の長丁場を引っ張る内容構成は素晴らしかったです。ありがとうございました。





難しい批評的な言葉なんか音楽を聴くのにはあまり必要でなくて、必要なのは適切な聴き方とそのための情報である、と最近は思っているのですが「夜の現代音楽講習会」はそうした意図を根底に置きつつ、今後も継続しておこなうイベントにしていきたいと思います。今回の来場者は43人。興行的には赤字なんですけれども、毎回10人ご来場していただける方を増やしていけば良いかな~、と。次回の開催時期は未定ですが、「リュック・フェラーリ」、「リゲティ」、「クセナキス対ル・コルビュジエ」などのアイデアだけはあります。あと「オペラ座は燃えているか(ブーレーズ)」というタイトルとか。










実のところ、この日の曲目についてはほとんど未聴でした。だからこそとても勉強になるイベントだったのです。最初の《3 × Refrain 2000》は、かなり音数の少ない作品で「あ、この雰囲気で残りの時間は大丈夫かな」という風に心配になったのですが、規模の大きいオーケストラ作品や電子音楽作品になると少しずつ会場もリラックスして聴くモードになっていて、後半はかなりユルユルな雰囲気に。初期から晩年までを辿って行く構成でしたが、シュトックハウゼンの作曲技法の変化は結構わかりやすかったのだな、と。《短波》や《HYMNEN》では様々な素材をカットアップのように自作に盛り込んでいてオーケストラや電車音といった楽音と具体音とが絡み合うのですが、直観音楽ではその具体志向みたいなのから離れてしまう。松平さんの解説によれば、直観音楽はテキストによる指示によってのみ構成された作曲作品で、演奏家はその指示をもとに直観で即興演奏を繰り広げる音楽だそうです。《渡り鳥》は直観音楽のひとつでしたが、音はかなり今っぽい。なかなかのレア音源だったようですが、私はこの作品が一番感銘を受けました。





で、そうしてものすごいフリーキー(というかアナーキーというか)な方向に突き進むかと思えば、シュトックハウゼンのスタイルはフォルメル技法に変わってしまう。ここではフォルメルという音型によって、フラクタルのように全体が構成され、ミクロコスモス-マクロコスモス、万物照応! みたいに作品が作られているそうです。いわば、直観音楽からフォルメル技法には非作曲的なコンポジションからガチガチな作曲行為の極北へ……みたいな揺り戻しを感じます。





後半に入ってからのオペラ《Lichit》と連作《Klang》を中心とした選曲も前半とまったく雰囲気が違っている。耳が慣れたせいもあるでしょうが、後半のほうが楽曲はポップに聴こえました。長大な作品では松平さんによる10分程度の抜粋版。おそらくは一番すごいシーンを選んでくださったのだと思いますが、2005年に聴い《Lichit》の最終場面で味わった「渋い……」という印象が払拭されるようでした。結構ロマンティックな響きの曲もあって、シュトックハウゼンがしばしばワーグナーと並置されて語られるのも納得がいきます。オペラのストーリーも紹介されたのも興味深かったですね。「え、これはもしかしてシュトックハウゼンが自分を主人公に投射したビルドゥングロマンスなの?」と思いました。





ラストの《Cosmic Pulses》は30分超の電子音楽作品。これはもう大団円と言って良かったでしょう。ラスト前に途中で帰られた方もいたのですが、この大ネタが体験できなかったのはちょっと勿体なかったかもしれません。





コメント

このブログの人気の投稿

石野卓球・野田努 『テクノボン』

テクノボン posted with amazlet at 11.05.05 石野 卓球 野田 努 JICC出版局 売り上げランキング: 100028 Amazon.co.jp で詳細を見る 石野卓球と野田努による対談形式で編まれたテクノ史。石野卓球の名前を見た瞬間、「あ、ふざけた本ですか」と勘ぐったのだが意外や意外、これが大名著であって驚いた。部分的にはまるでギリシャ哲学の対話篇のごとき深さ。出版年は1993年とかなり古い本ではあるが未だに読む価値を感じる本だった。といっても私はクラブ・ミュージックに対してほとんど門外漢と言っても良い。それだけにテクノについて語られた時に、ゴッド・ファーザー的な存在としてカールハインツ・シュトックハウゼンや、クラフトワークが置かれるのに違和感を感じていた。シュトックハウゼンもクラフトワークも「テクノ」として紹介されて聴いた音楽とまるで違ったものだったから。 本書はこうした疑問にも応えてくれるものだし、また、テクノとテクノ・ポップの距離についても教えてくれる。そもそも、テクノという言葉が広く流通する以前からリアルタイムでこの音楽を聴いてきた2人の語りに魅力がある。テクノ史もやや複雑で、電子音楽の流れを組むものや、パンクやニューウェーヴといったムーヴメントのなかから生まれたもの、あるいはデトロイトのように特殊な社会状況から生まれたものもある。こうした複数の流れの見通しが立つのはリスナーとしてありがたい。 それに今日ではYoutubeという《サブテクスト》がある。『テクノボン』を片手に検索をかけていくと、どんどん世界が広がっていくのが楽しかった。なかでも衝撃的だったのはDAF。リエゾン・ダンジュルースが大好きな私であるから、これがハマるのは当然な気もするけれど、今すぐ中古盤屋とかに駆け込みたくなる衝動に駆られる音。私の耳は、最近の音楽にはまったくハマれない可哀想な耳になってしまったようなので、こうした方面に新たなステップを踏み出して行きたくなる。 あと、カール・クレイグって名前だけは聞いたことあったけど、超カッコ良い~、と思った。学生時代、ニューウェーヴ大好きなヤツは周りにいたけれど、こういうのを聴いている人はいなかった。そういう友人と出会ってたら、今とは随分聴いている音楽が違っただろうなぁ、というほどに、カール・クレイグの音は自分のツ...

2011年7月17日に開催されるクラブイベント「現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」のフライヤーができました

フライヤーは ナナタさん に依頼しました。来月、都内の現代音楽関連のイベントで配ったりすると思います。もらってあげてください。 イベント詳細「夜の現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」

リヒテル――間違いだらけの天才

 スヴャトスラフ・リヒテルは不思議なピアニストだ。初めて彼のピアノを友達の家で聴いたとき、スタインウェイの頑丈なピアノですらもブッ壊してしまうんじゃないかと心配になるぐらい強烈なタッチとメトロノームの数字を間違えてしまったような速いテンポで曲を弾ききってしまう演奏に「荒野を時速150キロメートルで疾走するブルドーザーみたいだな」と率直な感想を持った。そういう暴力的とさえ言える面があるかと思えば、深呼吸するみたいに音と音の間をたっぷりとり、深く瞑想的な世界を作りあげるときもある。そのときのリヒテルの演奏には、ピンと張り詰めた緊張感があり、なんとなくスピーカーの前で正座したくなるような感覚におそわれる。  「荒々しさと静謐さがパラノイアックに共存している」とでも言うんだろうか。彼が弾くブラームスの《インテルメッツォ》も「間奏曲」というには速すぎるテンポで弾いているけれど、雑さが一切ない不思議な演奏。テンポは速いのに緊張感があるせいかとても長く感じられ、時間感覚をねじまげられてしまったみたいに思えてくる。かなり「個性的」な演奏。でも「ああ、こんな風に演奏しても良いのか……」と説得されてしまう。リヒテルの強烈な個性の前に、他のピアニストの印象なんて吹き飛んでしまいそうになる。  気がついたら好きなピアニストの一番にリヒテルあげるようになってしまっていた。個性的な人に惹かれてしまう。こういうのは健康的な趣味だと思うけど、自分でピアノを弾いている人の前で「リヒテル好きなんだよね」というと「あーあ、なるほどね」と妙に納得されるような、変な顔をされることがあるので注意。 スクリャービン&プロコフィエフ posted with amazlet on 06.09.13 リヒテル(スビャトスラフ) スクリャービン プロコフィエフ ユニバーサルクラシック (1994/05/25) 売り上げランキング: 5,192 Amazon.co.jp で詳細を見る  リヒテルという人は、ピアニストとしてだけ語るには勿体無いぐらいおかしな逸話にまみれている。ピアノ演奏もさることながら、人間としても「分裂的」っていうか、ほとんど病気みたいな人なのだ(それが天才の証なのかもしれないけれど)。「ピアノを弾くとき以外はロブスターの模型をかたときも手放さない」だとか「飛行機が嫌いすぎて、ロシア全...