野谷文昭 ヤマザキマリ
青土社 (2014-06-27)
売り上げランキング: 3,106
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本特集には、さまざまな作家や評論家がこの作家に対する思いを寄せているのだが、そうしたラヴ・レター的な文章は、割とどうでも良い。まず面白いのは野谷文昭や、鼓直、木村榮一、旦敬介といったラテンアメリカ文学を日本に紹介してきた翻訳者たちによって語られた作家に関するエピソードで、なかでも『百年の孤独』を執筆中に、アウレリャノ・ブエンディアを死を書くことが怖くなり、ついにその死まで到達してしまうと、自分の創作したキャラクターのために号泣してしまった、というものが印象残った。それからエクトル・アバッド=ファシオリンセによる追悼文も面白い。筆者はガルシア=マルケスとも親交があったコロンビアの作家だそうで、ガルシア=マルケスに対する評価が「平熱」で書かれている。とくに作家の政治性に関しての指摘(カストロと仲良しだった、など)は、文学者に対するある種の平和的偏見(作家はみんなヒューマニズムを持っている、的な。そのとき、石原慎太郎みたいな作家の存在は忘れられているのである)を壊すようだ。
ロベルト・ボラーニョの翻訳者、松本健二による文章も「ラテンアメリカ文学」というジャンルを考えるうえで、とても参考になる。ガルシア=マルケスの『百年の孤独』は確かに大傑作だが、この一冊のおかげで南米文学に対するイメージが「マジック・リアリズム」として既定されてしまい、南米の作家には「ラテンアメリカ文学」というブランドからあえて距離をとる人たちがいるとのこと。しかし、そこには「読者が求めているのはなんだかんだ言ってマジック・リアリズム」という状況もあるし、マジック・リアリズムじゃないのにマジック・リアリズムとして読まれてしまう、という事情もある。これは『百年の孤独』の商業的成功が生んだ弊害なのであろう。なにせ、日本では焼酎の名前にも借りられてるぐらいだし。
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