「モリエール一気読みプロジェクト」、続いては『病は気から』を。こちらはモリエールの最後の作品だそうで、なんでもこの作品の主役を演じてもいた彼は4度目の公演の終幕と同時に倒れ、そのまま帰らぬ人となったという。まるでジョニー・ギター・ワトソンみたいだが、とくに絶筆というほどの鬼気迫るものはなく、通常通りのモリエール節である。台本を書いているとき既に彼の健康状態は最悪だったそうだが、その状況でこれだけおかしな話が書けてしまうのは逆に壮絶か。得意の医者ネタも満載でとにかく笑えた。
この劇のなかでは、いくつか伝統を頑なに守ろうとする人に対しても皮肉めいた描写が見られる。この点が心に留まった。例えば、当時フランスでは信じられていなかった血液の循環論を否定するのに躍起になる若い医者や、慣習法を遵守させようとする公証人といった人物をモリエールはとてもこっけいな存在として描こうとする。彼らは皆「伝統は伝統だから正しく、そして守らなければならない」という具合にトートロジーめいた論理を振り回すのだが、それは以下の言葉によって打ち消されることになる。
古人は古人で、わたくしたちは現代の人間ですわ。
このセリフには近代の萌芽を感じてしまわなくもない。
この岩波文庫シリーズは解説もとても充実していて、ルイ14世治下のフランスにおける文化状況なども把握できて面白い。『病は気から』の解説には、モリエールが才能を見出してタッグを組んでいた作曲家、リュリとの軋轢なども書かれていて大変興味深かった。リュリと離れてしまったために、モリエールはシャルパンティエにこの劇のための音楽を依頼したそうである。リュリ、シャルパンティエといえば、大バッハ以前に存在した人気作曲家として(ごく一部で)有名であるが、彼らがモリエールと繋がっていたとは初めて知った。彼らの作品は、栗コーダーカルテットの演奏でしかしらないため、いずれ聴いてみたいと思う。
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