スキップしてメイン コンテンツに移動

ガイウス・ユリウス・カエサル『ガリア戦記』




ガリア戦記 (岩波文庫)
カエサル
岩波書店
売り上げランキング: 77337



 最近、徐々に自分のなかで歴史熱が再燃し始めているため、カエサルによる『ガリア戦記』を。さすがに2000年ぐらいの歴史がある本だけあって、とても面白かった。一説によれば、この本はカエサルが毎年戦地からローマの元老院に向けて書き送った詳細な報告書がもとになっているそうである。この報告書が元老院のなかで熱狂的な評判を呼んだことが発端で、カエサルが本にまとめたのではないか、とのこと。確かに文章は簡潔で、ほとんど装飾といったものがないところに報告書っぽいところが見受けられる。





 紀元前50年ごろの戦争で、すでに1万人単位で人が動いたことを知って「昔から戦争って大変な出来事だったんだなぁ……」と思った。移動手段も基本は徒歩なので、必要がある場合は一晩中歩き続けなければならない。自分なら絶対嫌だなぁ、とか思う。カエサルのガリア遠征は7年にもおよんだというから、これだけ長いあいだ兵士をまとめていたカエサルという人は、軍人としても政治家としてもホントに優秀な人だったのだろう。カエサルが戦場に現れただけで、味方が盛り返したり、敵が逃げていったりするのも、なんとなく理解できる。




 あとは途中に少しだけ出てくる、ガリアとゲルマニアの風習や、その土地の珍しい動物情報も面白かった。特にゲルマーニー人は、生まれてから「いちばん長く童貞を守っていたものが絶賛される」らしい。ゲルマーニー人は「20歳前に女を知るのは恥としている。このこと*1については少しも隠し立てしない」のだ。カエサルがどうしてこの文化を伝えようとしたのかはよくわからないが、いつの時代もこういう話はウケてしまうのかもしれない。




 珍しい動物では、アルケース*2というのがいる(どうやら山羊に似た生き物らしい)。





 こいつは倒れると自分で起き上がることができないそうである。なので、寝るときは横にならず、木にもたれかかって眠る。猟師たちはアルケースたちが寝床にしている木をみつけると、その木を根っこから引っこ抜いて、グラつくように地面に戻しておくらしい。そうすると、夜になって寝床の木にもたれかかった瞬間に、アルケースは寝床もろとも倒れてしまい、朝になるとその地点でもがいているのが見つかる――そんな賢くない野生動物がいて良いのか……と呆れてしまうが、山羊っぽい動物が起き上がれずにもがいている姿を想像したら、とても楽しい気分になった。





 岩波文庫版はかなり古い訳だけれども、読みにくいことはなかった。部族名や土地の名前がたくさん出てくるので、最初のほうに載っている地図のページに付箋を貼って読むと良い(カエサルがどのあたりで戦っていたのか、よくわかる)。




*1:つまり童貞であること


*2:プリニウスの『博物誌』にも登場するのだとか。ますます『博物誌』が読みたくなった





コメント

このブログの人気の投稿

石野卓球・野田努 『テクノボン』

テクノボン posted with amazlet at 11.05.05 石野 卓球 野田 努 JICC出版局 売り上げランキング: 100028 Amazon.co.jp で詳細を見る 石野卓球と野田努による対談形式で編まれたテクノ史。石野卓球の名前を見た瞬間、「あ、ふざけた本ですか」と勘ぐったのだが意外や意外、これが大名著であって驚いた。部分的にはまるでギリシャ哲学の対話篇のごとき深さ。出版年は1993年とかなり古い本ではあるが未だに読む価値を感じる本だった。といっても私はクラブ・ミュージックに対してほとんど門外漢と言っても良い。それだけにテクノについて語られた時に、ゴッド・ファーザー的な存在としてカールハインツ・シュトックハウゼンや、クラフトワークが置かれるのに違和感を感じていた。シュトックハウゼンもクラフトワークも「テクノ」として紹介されて聴いた音楽とまるで違ったものだったから。 本書はこうした疑問にも応えてくれるものだし、また、テクノとテクノ・ポップの距離についても教えてくれる。そもそも、テクノという言葉が広く流通する以前からリアルタイムでこの音楽を聴いてきた2人の語りに魅力がある。テクノ史もやや複雑で、電子音楽の流れを組むものや、パンクやニューウェーヴといったムーヴメントのなかから生まれたもの、あるいはデトロイトのように特殊な社会状況から生まれたものもある。こうした複数の流れの見通しが立つのはリスナーとしてありがたい。 それに今日ではYoutubeという《サブテクスト》がある。『テクノボン』を片手に検索をかけていくと、どんどん世界が広がっていくのが楽しかった。なかでも衝撃的だったのはDAF。リエゾン・ダンジュルースが大好きな私であるから、これがハマるのは当然な気もするけれど、今すぐ中古盤屋とかに駆け込みたくなる衝動に駆られる音。私の耳は、最近の音楽にはまったくハマれない可哀想な耳になってしまったようなので、こうした方面に新たなステップを踏み出して行きたくなる。 あと、カール・クレイグって名前だけは聞いたことあったけど、超カッコ良い~、と思った。学生時代、ニューウェーヴ大好きなヤツは周りにいたけれど、こういうのを聴いている人はいなかった。そういう友人と出会ってたら、今とは随分聴いている音楽が違っただろうなぁ、というほどに、カール・クレイグの音は自分のツ...

2011年7月17日に開催されるクラブイベント「現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」のフライヤーができました

フライヤーは ナナタさん に依頼しました。来月、都内の現代音楽関連のイベントで配ったりすると思います。もらってあげてください。 イベント詳細「夜の現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」

リヒテル――間違いだらけの天才

 スヴャトスラフ・リヒテルは不思議なピアニストだ。初めて彼のピアノを友達の家で聴いたとき、スタインウェイの頑丈なピアノですらもブッ壊してしまうんじゃないかと心配になるぐらい強烈なタッチとメトロノームの数字を間違えてしまったような速いテンポで曲を弾ききってしまう演奏に「荒野を時速150キロメートルで疾走するブルドーザーみたいだな」と率直な感想を持った。そういう暴力的とさえ言える面があるかと思えば、深呼吸するみたいに音と音の間をたっぷりとり、深く瞑想的な世界を作りあげるときもある。そのときのリヒテルの演奏には、ピンと張り詰めた緊張感があり、なんとなくスピーカーの前で正座したくなるような感覚におそわれる。  「荒々しさと静謐さがパラノイアックに共存している」とでも言うんだろうか。彼が弾くブラームスの《インテルメッツォ》も「間奏曲」というには速すぎるテンポで弾いているけれど、雑さが一切ない不思議な演奏。テンポは速いのに緊張感があるせいかとても長く感じられ、時間感覚をねじまげられてしまったみたいに思えてくる。かなり「個性的」な演奏。でも「ああ、こんな風に演奏しても良いのか……」と説得されてしまう。リヒテルの強烈な個性の前に、他のピアニストの印象なんて吹き飛んでしまいそうになる。  気がついたら好きなピアニストの一番にリヒテルあげるようになってしまっていた。個性的な人に惹かれてしまう。こういうのは健康的な趣味だと思うけど、自分でピアノを弾いている人の前で「リヒテル好きなんだよね」というと「あーあ、なるほどね」と妙に納得されるような、変な顔をされることがあるので注意。 スクリャービン&プロコフィエフ posted with amazlet on 06.09.13 リヒテル(スビャトスラフ) スクリャービン プロコフィエフ ユニバーサルクラシック (1994/05/25) 売り上げランキング: 5,192 Amazon.co.jp で詳細を見る  リヒテルという人は、ピアニストとしてだけ語るには勿体無いぐらいおかしな逸話にまみれている。ピアノ演奏もさることながら、人間としても「分裂的」っていうか、ほとんど病気みたいな人なのだ(それが天才の証なのかもしれないけれど)。「ピアノを弾くとき以外はロブスターの模型をかたときも手放さない」だとか「飛行機が嫌いすぎて、ロシア全...