スキップしてメイン コンテンツに移動

プラトン 『ティマイオス』(5)




原文


Timaeus
Timaeus
posted with amazlet at 11.03.17
Plato Donald J. Zeyl
Hackett Pub Co Inc
売り上げランキング: 84124



 ソクラテスよ、今私が話したことがソロンがはじめに伝えたように私の祖父であるクリティアスが語った話の簡潔なところです。昨日あなたが政治と人々について話しているあいだ、私はこれらのことを思い出し、またソロンが話したこととあなたの考えが超自然的名偶然によってまったく合意していることに驚いていたのです。けれども、私はその場ではこれを言いたくありませんでした。私がこの話を聞いたのはずいぶん前の話でしたし、私はソロンの話をあまりよく覚えていませんでした。そしてまずはこの話全体をよく思い出す必要があり、そして話す必要がある、と思ったのです。だから私はあなたの昨日の課題に早く同意したのでした。このような状況においてもっとも重要な課題は、人々が期待しているような話を提供することです。また、これを私が話したなら、ここにいる人は快く受け取ってくれるだろう、と考えました。ヘルモクラテスがすでに言ったとおり、昨日ここを離れるとすぐに、彼とティマイオスにこの話を繰り返し始めたのには、こうした実状があるのです。彼らと分かれた後に、一晩中集中して、どうにか全体を思い出すことができました。彼らは言いました。子ども時代に教えられたことは特別な方法によって保持されている、と。まったくそのとおりでした! 私の場合、昨日聞いたこのならなんでも思い出せるかどうかわかりません、しかし、この話のあらゆる部分が出てきたのならばそれは驚くべきことでしょう、なにしろ、私がそれを聞いてからずいぶん長い時間が経っていますから。私がそのとき聞いたものごとはとても子どもらしい喜びを与えてくれました――私がいくつもの質問をするものですから、老人は熱心に伝えてくれました。だから、その話は私のなかに焼きついて消せなくなった絵のように留まっていたのです。そして今朝、私はこの話の全体をティマイオスとヘルモクラテスに話しました。そうして私だけでなく、彼らもまた私たちが話す素材を手に入れることができたのです。


 ソクラテスよ、私はすっかりこのソロンの話を準備するまでについて話してしまいました。私は主要な点だけを話すのではなく、ひとつひとつ詳細に私が聞いたとおり話したかったのです。私たちは昨日あなたが話してくれた古代の流儀における市民と都市を、古代のアテネ自身に置き換えてしまうでしょう。そして、あなたが想像した市民が、あの神官が話していた私たちの先祖そのものであると言いたいのです。あなたが想像した市民がかつて本当に存在していたのだとするならば、その一致は完璧なものとなり、私たちの歌は調性がとれたものとなるでしょう。私たちはその課題を分かちあい、そしてその課題に対して充分に答えられるよう全力をつくすつもりです。あなたはどうお考えでしょう、ソクラテス? 私たちが話したようにするべきでしょうか? それとももっと別なものに話を変えるべきでしょうか?


ソクラテス:おお、クリティアスよ、これよりも優れた弁論をほかに誰ができるだろうか? 女神の祭典を祝う最中にあって、この弁論はとてもこの状況に相応しい。これよりも適したものはないだろう。もちろん、それが作り話でなく、本当の説明であっても些細な問題にもならない。これを続けなければ、いったいどうして、どこにいけば他に祝うためのものを見つけられるだろうか? 選択の余地などない。君たちの話を続けたまえ、さあ! 私は座って君たちの話を聞く側にまわろう。昨日のお返しとしてね。


クリティアス:わかりました、ソクラテス。あなたは客人であるあなたに贈り物をしようという私たちの考えをどのようにお考えでしょう? 私たちは次にティマイオスが話すべきだと考えています。彼は天文学の専門家ですし、宇宙の自然について学ぶことが彼の本業なのですから。彼は世界や人間の自然のはじまりについてはなしてくれるでしょう。そうすれば、私は一度にティマイオスの人間の起源に関する説明と、あなたのどのようにして人々は優れた教育を受けるようになるかに関する説明を知ることができます。私はそれらを単にソロンの説明だけではなく、彼が作った法律が示したであろうものとして、法廷へと導入し、そして、我々を低い身分から救ってくれるような聖なる記録に伝えられる、アテネの古き良き時代の人々たちのように人々を変えるつもりです。そうすれば、そうした素晴らしい人々を実際のアテネ市民のように語ることができるでしょう。


ソクラテス:私へのお返しとしてこの素晴らしい弁論の饗宴を私は完全に受けとってしまうつもりだよ。素晴らしいじゃないか、ティマイオス、次の話し手になる義務が君にめぐってきたようだよ。私たちがいつもするように、神を称えようじゃないか。





コメント

このブログの人気の投稿

石野卓球・野田努 『テクノボン』

テクノボン posted with amazlet at 11.05.05 石野 卓球 野田 努 JICC出版局 売り上げランキング: 100028 Amazon.co.jp で詳細を見る 石野卓球と野田努による対談形式で編まれたテクノ史。石野卓球の名前を見た瞬間、「あ、ふざけた本ですか」と勘ぐったのだが意外や意外、これが大名著であって驚いた。部分的にはまるでギリシャ哲学の対話篇のごとき深さ。出版年は1993年とかなり古い本ではあるが未だに読む価値を感じる本だった。といっても私はクラブ・ミュージックに対してほとんど門外漢と言っても良い。それだけにテクノについて語られた時に、ゴッド・ファーザー的な存在としてカールハインツ・シュトックハウゼンや、クラフトワークが置かれるのに違和感を感じていた。シュトックハウゼンもクラフトワークも「テクノ」として紹介されて聴いた音楽とまるで違ったものだったから。 本書はこうした疑問にも応えてくれるものだし、また、テクノとテクノ・ポップの距離についても教えてくれる。そもそも、テクノという言葉が広く流通する以前からリアルタイムでこの音楽を聴いてきた2人の語りに魅力がある。テクノ史もやや複雑で、電子音楽の流れを組むものや、パンクやニューウェーヴといったムーヴメントのなかから生まれたもの、あるいはデトロイトのように特殊な社会状況から生まれたものもある。こうした複数の流れの見通しが立つのはリスナーとしてありがたい。 それに今日ではYoutubeという《サブテクスト》がある。『テクノボン』を片手に検索をかけていくと、どんどん世界が広がっていくのが楽しかった。なかでも衝撃的だったのはDAF。リエゾン・ダンジュルースが大好きな私であるから、これがハマるのは当然な気もするけれど、今すぐ中古盤屋とかに駆け込みたくなる衝動に駆られる音。私の耳は、最近の音楽にはまったくハマれない可哀想な耳になってしまったようなので、こうした方面に新たなステップを踏み出して行きたくなる。 あと、カール・クレイグって名前だけは聞いたことあったけど、超カッコ良い~、と思った。学生時代、ニューウェーヴ大好きなヤツは周りにいたけれど、こういうのを聴いている人はいなかった。そういう友人と出会ってたら、今とは随分聴いている音楽が違っただろうなぁ、というほどに、カール・クレイグの音は自分のツ...

2011年7月17日に開催されるクラブイベント「現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」のフライヤーができました

フライヤーは ナナタさん に依頼しました。来月、都内の現代音楽関連のイベントで配ったりすると思います。もらってあげてください。 イベント詳細「夜の現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」

リヒテル――間違いだらけの天才

 スヴャトスラフ・リヒテルは不思議なピアニストだ。初めて彼のピアノを友達の家で聴いたとき、スタインウェイの頑丈なピアノですらもブッ壊してしまうんじゃないかと心配になるぐらい強烈なタッチとメトロノームの数字を間違えてしまったような速いテンポで曲を弾ききってしまう演奏に「荒野を時速150キロメートルで疾走するブルドーザーみたいだな」と率直な感想を持った。そういう暴力的とさえ言える面があるかと思えば、深呼吸するみたいに音と音の間をたっぷりとり、深く瞑想的な世界を作りあげるときもある。そのときのリヒテルの演奏には、ピンと張り詰めた緊張感があり、なんとなくスピーカーの前で正座したくなるような感覚におそわれる。  「荒々しさと静謐さがパラノイアックに共存している」とでも言うんだろうか。彼が弾くブラームスの《インテルメッツォ》も「間奏曲」というには速すぎるテンポで弾いているけれど、雑さが一切ない不思議な演奏。テンポは速いのに緊張感があるせいかとても長く感じられ、時間感覚をねじまげられてしまったみたいに思えてくる。かなり「個性的」な演奏。でも「ああ、こんな風に演奏しても良いのか……」と説得されてしまう。リヒテルの強烈な個性の前に、他のピアニストの印象なんて吹き飛んでしまいそうになる。  気がついたら好きなピアニストの一番にリヒテルあげるようになってしまっていた。個性的な人に惹かれてしまう。こういうのは健康的な趣味だと思うけど、自分でピアノを弾いている人の前で「リヒテル好きなんだよね」というと「あーあ、なるほどね」と妙に納得されるような、変な顔をされることがあるので注意。 スクリャービン&プロコフィエフ posted with amazlet on 06.09.13 リヒテル(スビャトスラフ) スクリャービン プロコフィエフ ユニバーサルクラシック (1994/05/25) 売り上げランキング: 5,192 Amazon.co.jp で詳細を見る  リヒテルという人は、ピアニストとしてだけ語るには勿体無いぐらいおかしな逸話にまみれている。ピアノ演奏もさることながら、人間としても「分裂的」っていうか、ほとんど病気みたいな人なのだ(それが天才の証なのかもしれないけれど)。「ピアノを弾くとき以外はロブスターの模型をかたときも手放さない」だとか「飛行機が嫌いすぎて、ロシア全...