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韓国の伝統音楽について

《韓国》サムルノリ
《韓国》サムルノリ
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キム・ドクス
Warner Music Japan =music= (2008-08-06)
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昨年はMPBばっかり買い漁っていた一年だったが、実はその裏で韓国の伝統音楽のCDも見つけては購入していたのだった。もともとは韓国の作曲家、尹伊桑(ユン・イサン)の韓国の伝統音楽のエッセンスを含む初期作品を聴いて、そこにある独特な空気感(同じ東アジアなのに、邦楽を取り入れた日本人の作品とはまるで違った呼吸や、時間感覚)が、このジャンルに手を出すきっかけ。尹伊桑が自分の人生を語った本のなかでも韓国の伝統音楽が作曲家に与えた影響について触れられているが、かの国では日本よりもずっと音楽と儀式が強く結びついていて、音楽の呪術が本当に最近まで残っていたのがうかがえる。

キム・ドクスによるサムルノリは、厳密に言えば伝統音楽ではなく、伝統音楽の「農楽」と呼ばれるものを発展させた言わば「新・伝統音楽」だ。太陽、月、星、人間の四つの要素に意味付けられた打楽器によるこのアンサンブルも、元々は五穀豊穣を願う祭事の音楽だった。韓国の伝統音楽は地域によっていろいろ特色があり、詳しいところはぼくもよく理解できていないのだが(まず韓国の行政区分だとか地域の名前を覚えていない)サムルノリは各地の音楽を抽出し、再解釈したものらしい。これだけ色彩感溢れ、躍動感のある音楽が生まれた国から素晴らしいリズム感の持ち主が生まれるのは、当然なのかも、とも思う。


シナウィ~韓国シャーマン・ミュージックの極致
民族音楽
ビクターエンタテインメント (2000-08-02)
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シナウィは韓国の南道地方(半島の一番南を半分に割って、その西側)に伝わる儀式のための音楽で、サムルノリの音楽の中核をなすもの、ということらしい。このCDについてきた解説によれば南道地方は朝鮮半島でもかなり独特の文化があるらしく、強烈な個性を放っているんだとか。シナウィは「神あるいは霊魂を呼び招き、現世の人間との対話を仲介する」巫女がトランス状態に入るための踊りへの伴奏音楽だが「トランス」という言葉から想像される激しさはなく、どちらかと言えば韓国の音楽ではマイルドな響きを持つものだと思う。楽器も弦楽器が中心。楽曲の大きな形式が決まっていて、演奏者はそれに則って即興演奏を繰り広げるのだが、音楽が静かに高まっていく展開がとても良い。途中で複雑にシンコペーションしたり、ここでもリズムの面白さが耳を惹く。弓で弾く箏「牙箏(アジェン)」が使用されているのも、聴き所だ。


《韓国》パンソリ
《韓国》パンソリ
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金素姫
Warner Music Japan =music= (2008-08-06)
売り上げランキング: 167899

パンソリもまた南道シナウィ系の音楽で、音楽にあわせて物語を語り歌う伝統芸能になる。そこで演ぜられるのは長大な叙事詩で、正式な演奏では歌い手は8時間以上休みなしで歌い続けるという壮絶なもの(しかも、歌い手はたったひとりで歌い続けなければいけない)。このCDはそのパンソリの歌い手でも現代最高と賞される金素姫(キム・ソヒ)によるライヴ音源。レチタティーヴォやアリアなど歌唱法の多彩さ、強烈な迫力が魅力的だ。そしてジャケットが最高。




〈韓国/シャーマン音楽1〉死者への巫儀~珍島シッキムクッ
民族音楽 キム・デラ
ビクターエンタテインメント (2000-08-02)
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今回紹介するなかでは珍島(韓国南西端の島。珍島物語の珍島)のシッキムクッが最も強烈。上記のCD副題にもあるとおり、これは死んだ人の魂を清めるための儀式音楽であり、言わばレクイエムのようなものなのだが、西洋式の清らかで荘厳なものではなく、地霊のような男女の地声とパーカッションのアンサンブルによって荒々しく執り行われる。これは本当にスゴい。この録音では珍島シッキムクッの第一人者、金大禮(キム・デレ)のノドの強さが存分に味わえる。なお、シッキムクッ自体は珍島に限られた儀式ではないらしく、南道地方中心に存在している儀式とのこと(詳しくはこのサイトを)


アリラン~韓国京畿民謡の粋
民族音楽 リークンミ チョー・キョン・ヒ
ビクターエンタテインメント (2000-08-02)
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南道地方の音楽に触れた後に、アリランなどを聴くとこれが実に優しい音楽であることがわかる。京幾地方は、南道とは逆で韓国の最北西、ソウルがあるのもこの地方で、やっぱり都会の音楽、ということなのだろうか。逆に、マイルドすぎてこれを最初に聴いてしまうと「楽しいし、良いな、と思えるけれどなんかヌルくね〜?」となってしまいそうなので注意。これだけ多様性がある国も珍しいように思われるのだが、日本の民謡なんかはどうなんだろうか。隣の国を鏡に自分の音楽を調べてみたくなったりもするので、音楽は本当に業の深い趣味である……。

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