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John Fahey / Red Cross

Red Cross
Red Cross
posted with amazlet at 13.01.08
John Fahey
Revenant Records (2003-02-11)
売り上げランキング: 365,932
2001年に亡くなったギタリスト、ジョン・フェイヒーの最晩年の演奏を収めた最後のオリジナル・アルバムを聴く(生前に発表されたものではない)。これはなんだかスゴいアルバムだった。一体どんな環境で録音されたものかわからないのだが、ライナーの情報から推測するにフェイヒー自身がプライベートで録音していた音源を発掘してコンパイルしたもの、なのかもしれない。それだけに演奏は割とユルく、音質も謎にリバーブがかかりまくってる曲もあれば、フィードバック・ノイズから始まる曲もあるし、「Summertime」までカヴァーする。トリオで活動していたときのオルガン奏者、ティム・ライトとロブ・スクリヴナーがベースで一緒に演奏している「Untitled with Rain」は、タイトルどおり雨音までまじっているうえに、演奏が途中でフェードアウトし、15分以上無音のあとに隠しトラック的な曲に……と、とっ散らかっているアルバムではある。

……しかし、このなんだかよくわからない感じ、はっきりとしない雰囲気に、ブルース、カントリー、ブルーグラス、サイケなどジョン・フェイヒーという人に貼付けられたレッテルがすべて融解してしまい、境地的なものに達してしまった晩年の彼の姿(とはいえ62歳で亡くなっているので、普通の人と比べたら割と若いうちに亡くなっている、と言える)を感じてしまうのだ。とくに前述の「Untitled with Rain」でのオルガンの持続音とベースのオスティナートと、自然のノイズを背景にして展開される即興的なフェイヒーのギターは、もはや幽玄の世界であろう。感嘆。彼の生涯と、晩年について書かれたライナーノーツも必読である。初めてフェイヒーを聴く人にはすすめないけれども、いや、ここから初めたって、只者ではない印象を受け取れる人には受け取れるはずだ。

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