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U2 / Songs Of Innocence

ソングス・オブ・イノセンス
U2
ユニバーサル ミュージック (2014-10-22)
売り上げランキング: 1,858
iTunesのユーザーになかば強制的に配信されるというかつてない形式で無料配布されているU2の新譜を聴く。有識者のあいだでは「こんな風にしたらアルバムの売り上げが下がるに決まっているだろう」という意見もあるようだけれども、最近の大物ロックバンドの収益は完全に大規模なライヴ・ツアーが中心になっているそうだから、アルバムの売り上げなんかほとんど気にしていないのだろう。むしろ、これをプロモーションにライヴ動員数の増員を……というのがあるのかもしれない。とはいえ、U2というバンドの知名度は日本のみならず世界的にも「誰だよ?」と騒ぎになる事象を確認できるほどのものになっているのは驚きで、これはロック・ミュージックというジャンルの凋落と、誰も本気で音楽なんか聴いていないんじゃないか、という寂しさを味わわせてくれる。Cold Playは知っているが、U2は知らない、みたいな人も多そうな気がする(これはPolysicsは知ってるけど、Devoは知らない、みたいな関係に近い、か?)。

しかし、自分自身、U2の新譜をちゃんと聴くのが久しぶりだったりするのだ。前作はリリースの存在自体認識していなかったし、さらに前の『How to Dismantle an Atomic Bomb』は10年前だと言う。「Vertigo」のiPodのCMが10年前かよ……と驚きしかないが、本作はソリッドでかつ、音がギュッと固く詰まった優れたロックンロール・アルバムだと思う。プロデュースはDanger Mouse。とにかく音が今のロック・バンドっぽくなっている。相変わらずジ・エッジはあのディレイを使ったギター・プレイをしているが、ジャギジャギの鋭いギター・リフを繰り出していてテンションがあがるし、それからアダム・クレイトンのベースがこれまでになく印象的だ。Franz Ferdinandかよ、New Orderかよ、みたいにグイグイとベースが曲を引っ張っていく。なんだ、カッコ良いじゃないかよ、と安心して聴いてしまうのだった。リード・シングルの「The Miracle (Of Joey Ramone)」だけじゃなく、リード・シングルっぽい曲が満載、というか全曲シングルA面でもおかしくない感じなので、やっぱりこれが大物ロック・バンドなのだなあ、と思う。

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