スキップしてメイン コンテンツに移動

フランスの芸術に対する底力みたいなもの




D

 「Youtubeにピエール・ブーレーズの動画でもないかしら」と思って検索かけたら出てきた変な映像。フランスにはIRCAMという国立の電子音楽研究所(!)が存在するのだけど*1、どうやらそこが金を出してマサチューセッツ工科大学のBarry Vercoe博士に作らせた「The Synthetic Performer(シンセティック・パフォーマー)」というマシンのプレゼンテーション模様のようである。フルート奏者はアンサンブル・インテルコンテポラン*2の人。


 このシンセティック・パフォーマー、自動伴奏マシンらしい。それだけ聞くと「えー、そんなのテープに録音した伴奏つかえば良いじゃん!」とツッコミを入れたくなるのだが(また音色が初期のMIDIよりも酷いシロモノだし)、特殊機能がついているのがミソ。「従来の機械では、演奏者の表現におけるテンポ変化にあわせるということができませんでしたが、このシンセティック・パフォーマーではその問題を解決しているのです」と博士の説明が入る。映像をよく見るとフルートにはコードみたいなのがくっついていて、そこで機械が音の情報を読み取って、演奏者のテンポ変化に見事に合わせている。他にもチューニングを演奏者のものに勝手に合わせてくれる機能がついているみたいだ。


 でも、やっぱりしょぼい。「うわー、すごいな」と思えるのはこういう珍発明としか呼べない機械に国が金を出しているという事実だけ。きっと、すげー金かかってんだろうなぁ、と思う。はっきり言ってバカ。だけど拍手を送りたい類のバカだ。プレゼンもまるでやる気のないテレフォンショッピングみたいで良いし。他にもこのIRCAM、ブーレーズにすごくダビーなクラリネット独奏曲を作らせたりしている。バカに優しい国なんだろうか。こういう国に生まれたかったよ。



20/21 - Boulez: Repons, Dialogue De L’Ombre Double / Boulez, Ensemble InterContemporain
Alain Damiens Pierre Boulez Pierre Boulez Frederique Cambreling Ensemble InterContemporain Dimitri Vassilakis Florent Boffard Vincent Bauer Daniel Ciampolini
Deutsche Grammophon (1999/04/13)
売り上げランキング: 25749



 ちなみに《二重の影の対話》という作品が「ブーレーズのダブ」。クラリネット奏者VS録音されたクラリネット・パート(エフェクト付)という感じでCDで聞くとピンク・フロイドの『狂気』みたいな定位の移動だ…という程度なのだけれど、生で聴くとすごい。会場に設置された6つのスピーカーから音が飛んでくる飛んでくる(ちゃんとダビイストもいました)。馬鹿にしてるようだけれど、最近のブーレーズの作品では最も好きです。




*1:ブーレーズが所長元総裁。現在はフランク・マドレーネという人らしい(誰?)


*2:これもブーレーズ主宰のオーケストラ





コメント

  1. これもってるよー  サラウンドで聞きたいわ2chじゃダメだろうねやっぱし
    不穏すぎて最初は死ぬかと思った。

    返信削除
  2. ヘッドフォンで聴くとまぁそれなりに面白いけれど、後ろ方から爆音で聞こえてくるディレイ・クラリネットな感じまでは再現できないね。いや、ほんと、これはカッコ良い。

    返信削除
  3. もうブーレーズは総裁じゃないぞ。
    20世紀のヘンテコ楽器といえばテルミンだろ。
    ちなみに調べたら「パリ音楽院では1947年よりオンド・マルトノ科が開設され、現在も若い演奏家たちを育てている。」そうで、フランスはやっぱり違うぜ。スゲェ。

    返信削除
  4. え、そうなんすか?(訂正しておきます)今、誰が……。ハラダタカシ、コンセルヴァトワールのオンド・マルトノ科卒だったのでそれは知ってました。変な楽器といえば、リヒャルト・シュトラウス関連でもたくさん変な楽器がありますね。ヘッケルフォンとか。

    返信削除

コメントを投稿

このブログの人気の投稿

石野卓球・野田努 『テクノボン』

テクノボン posted with amazlet at 11.05.05 石野 卓球 野田 努 JICC出版局 売り上げランキング: 100028 Amazon.co.jp で詳細を見る 石野卓球と野田努による対談形式で編まれたテクノ史。石野卓球の名前を見た瞬間、「あ、ふざけた本ですか」と勘ぐったのだが意外や意外、これが大名著であって驚いた。部分的にはまるでギリシャ哲学の対話篇のごとき深さ。出版年は1993年とかなり古い本ではあるが未だに読む価値を感じる本だった。といっても私はクラブ・ミュージックに対してほとんど門外漢と言っても良い。それだけにテクノについて語られた時に、ゴッド・ファーザー的な存在としてカールハインツ・シュトックハウゼンや、クラフトワークが置かれるのに違和感を感じていた。シュトックハウゼンもクラフトワークも「テクノ」として紹介されて聴いた音楽とまるで違ったものだったから。 本書はこうした疑問にも応えてくれるものだし、また、テクノとテクノ・ポップの距離についても教えてくれる。そもそも、テクノという言葉が広く流通する以前からリアルタイムでこの音楽を聴いてきた2人の語りに魅力がある。テクノ史もやや複雑で、電子音楽の流れを組むものや、パンクやニューウェーヴといったムーヴメントのなかから生まれたもの、あるいはデトロイトのように特殊な社会状況から生まれたものもある。こうした複数の流れの見通しが立つのはリスナーとしてありがたい。 それに今日ではYoutubeという《サブテクスト》がある。『テクノボン』を片手に検索をかけていくと、どんどん世界が広がっていくのが楽しかった。なかでも衝撃的だったのはDAF。リエゾン・ダンジュルースが大好きな私であるから、これがハマるのは当然な気もするけれど、今すぐ中古盤屋とかに駆け込みたくなる衝動に駆られる音。私の耳は、最近の音楽にはまったくハマれない可哀想な耳になってしまったようなので、こうした方面に新たなステップを踏み出して行きたくなる。 あと、カール・クレイグって名前だけは聞いたことあったけど、超カッコ良い~、と思った。学生時代、ニューウェーヴ大好きなヤツは周りにいたけれど、こういうのを聴いている人はいなかった。そういう友人と出会ってたら、今とは随分聴いている音楽が違っただろうなぁ、というほどに、カール・クレイグの音は自分のツ

2011年7月17日に開催されるクラブイベント「現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」のフライヤーができました

フライヤーは ナナタさん に依頼しました。来月、都内の現代音楽関連のイベントで配ったりすると思います。もらってあげてください。 イベント詳細「夜の現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」

桑木野幸司 『叡智の建築家: 記憶のロクスとしての16‐17世紀の庭園、劇場、都市』

叡智の建築家―記憶のロクスとしての16‐17世紀の庭園、劇場、都市 posted with amazlet at 14.07.30 桑木野 幸司 中央公論美術出版 売り上げランキング: 1,115,473 Amazon.co.jpで詳細を見る 本書が取り扱っているのは、古代ギリシアの時代から知識人のあいだで体系化されてきた古典的記憶術と、その記憶術に活用された建築の歴史分析だ。古典的記憶術において、記憶の受け皿である精神は建築の形でモデル化されていた。たとえば、あるルールに従って、精神のなかに区画を作り、秩序立ててイメージを配置する。術者はそのイメージを取り出す際には、あたかも精神のなかの建築物をめぐることによって、想起がおこなわれた。古典的記憶術が活躍した時代のある種の建築物は、この建築的精神の理想的モデルを現実化したものとして設計され、知識人に活用されていた。 こうした記憶術と建築との関連をあつかった類書は少なくない(わたしが読んだものを文末にリスト化した)。しかし、わたしが読んだかぎり、記憶術の精神モデルに関する日本語による記述は、本書のものが最良だと思う。コンピューター用語が適切に用いられ、術者の精神の働きがとてもわかりやすく書かれている。この「動きを捉える描写」は「キネティック・アーキテクチャー」という耳慣れない概念の説明でも一役買っている。 直訳すれば「動的な建築」となるこの概念は、記憶術的建築を単なる記憶の容れ物のモデルとしてだけではなく、新しい知識を生み出す装置として描くために用いられている。建築や庭園といった舞台を動きまわることで、イメージを記憶したり、さらに配置されたイメージとの関連からまったく新しいイメージを生み出すことが可能となる設計思想からは、精神から建築へのイメージの投射のみならず、建築から精神へという逆方向の投射を読み取れる。人間の動作によって、建築から作用がおこなわれ、また建築に与えられたイメージも変容していくダイナミズムが読み手にも伝わってくるようだ。 本書は、2011年にイタリア語で出版された著書を書き改めたもの。手にとった人の多くがまず、その浩瀚さに驚いてしまうだろうけれど、それだけでなくとても美しい本だと思う。マニエリスム的とさえ感じられる文体によって豊かなイメージを抱か