金沢で見たもののなかで一番印象的だったことと言えば「蟹は茹でたのが一番美味い」ということに尽きるのだが、それ以外にもうひとつだけ挙げるなら「庭とは素晴らしいものである」ということだ。特に素晴らしかったのは、長町武家屋敷の「野村家」の庭で、訪れた日がもっと暖かい日であったならば半日ぐらい眺めていたくなるものだった。
鯉がゆっくりと泳ぐ池からは絶え間なく水が落ちる音が聞こえ、色褪せない常緑樹の鮮やかな緑が冷たい空気によく映える。自然を模していながら、人工的に秩序立てられたその庭は、小さな宇宙と言っても過言ではないのかもしれない。この家に住んでいた人たちは、畳の上からきっとこの世界を眺めていたのだろう。
野村家の庭が小さな宇宙なのだとしたら、日本三名園のひとつに数え上げられる兼六園は大きな宇宙と言えるだろう。この広い空間は外側から眺めることができない(もしかしたら金沢城の天守閣からは俯瞰することができたのかもしれないが)。ゆえに我々はその宇宙のなかを歩くことによって、この世界を愉しむことになる。
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