スキップしてメイン コンテンツに移動

鳥サウンドがすごい。




鳥
posted with amazlet on 06.10.31
ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン (2005/12/23)



 続けて二本目。ヒッチコックの映画は初めて。全くの偶然だけれど『ダーティーハリー』も『鳥』もサンフランシスコ(またはその周辺)が舞台になっていた。


 最初から主人公が場面(というか映画的な世界)にずっと馴染まないような感じで「異物感」が強烈だったんだけど、映画そのものも世界に異物が入り込んだときのアレルギー的な反応、パニック症状みたいなものが描かれてるように思った。しかし、これほど「精神分析的に読むとすっきり解釈できますよ」と思わされる映画は見たことがなかった。そりゃ、ジジェクも大喜びするわな。準主人公的な弁護士ミッチとその母親の関係にも何か倒錯した親子愛を感じさせるし、もっと露骨なものであればレストランで主人公がヒステリックな罵声を浴びせかけられるシーンでは、その批難をする人たちは全て女性だ(実際には批難は代表者的な一人の女性によってなされるのだが)。


 あと主人公が鳥に襲撃喰らってるシーンは、ものすごくエロい。本気で興奮してしまうぐらいエロい。このシーン、カメラは主人公の右手→顔→左手→右手→顔…と繰り返し切り替わっていくんだけど、典型的なベッドシーンのカメラワークな感じもする。なんだ、このエロスは。


 やっぱり私は映画を観ていても音が気になって仕方ないのだけれど、この映画のクライマックスで聞かれる鳥の鳴き声はすごい。シンセサイザーとテープの回転速度操作でカモメの大群が襲撃している感じを演出してるんだけど「シュトックハウゼンか!」っていうぐらいの音のカッコ良さである。これ、5.1chで音を組み直したら大変なことになるぞ。(シュトックハウゼンかジョージ・マーティンあたりに頼みたい)。


 ヒッチコック、面白かったのでどんどん観て行きたいと思います。ジャングルジムに集まるカラスのところと、レストランで議論してるシーンが好き。議論シーンって海外の映画作品でよく観る気がして、すごく日本と外国との文化の違いみたいなものを感じる。『12人の怒れる男』しかり、『真昼の決闘』しかり、外人って議論好きだよなぁ、というか。





コメント

  1. 映画中、BGM がほぼ全く無いんだよね。
    ティッピー・ヘドレンのオーディションフィルム(DVDに入ってる?)もやたらとエロいと聞いた。

    返信削除
  2. BGMはないけれど主人公がアラベスクを弾くよね。あれも考えが淀むところでテンポにリタルダンドがかかったりと演出が細かい。

    返信削除

コメントを投稿

このブログの人気の投稿

石野卓球・野田努 『テクノボン』

テクノボン posted with amazlet at 11.05.05 石野 卓球 野田 努 JICC出版局 売り上げランキング: 100028 Amazon.co.jp で詳細を見る 石野卓球と野田努による対談形式で編まれたテクノ史。石野卓球の名前を見た瞬間、「あ、ふざけた本ですか」と勘ぐったのだが意外や意外、これが大名著であって驚いた。部分的にはまるでギリシャ哲学の対話篇のごとき深さ。出版年は1993年とかなり古い本ではあるが未だに読む価値を感じる本だった。といっても私はクラブ・ミュージックに対してほとんど門外漢と言っても良い。それだけにテクノについて語られた時に、ゴッド・ファーザー的な存在としてカールハインツ・シュトックハウゼンや、クラフトワークが置かれるのに違和感を感じていた。シュトックハウゼンもクラフトワークも「テクノ」として紹介されて聴いた音楽とまるで違ったものだったから。 本書はこうした疑問にも応えてくれるものだし、また、テクノとテクノ・ポップの距離についても教えてくれる。そもそも、テクノという言葉が広く流通する以前からリアルタイムでこの音楽を聴いてきた2人の語りに魅力がある。テクノ史もやや複雑で、電子音楽の流れを組むものや、パンクやニューウェーヴといったムーヴメントのなかから生まれたもの、あるいはデトロイトのように特殊な社会状況から生まれたものもある。こうした複数の流れの見通しが立つのはリスナーとしてありがたい。 それに今日ではYoutubeという《サブテクスト》がある。『テクノボン』を片手に検索をかけていくと、どんどん世界が広がっていくのが楽しかった。なかでも衝撃的だったのはDAF。リエゾン・ダンジュルースが大好きな私であるから、これがハマるのは当然な気もするけれど、今すぐ中古盤屋とかに駆け込みたくなる衝動に駆られる音。私の耳は、最近の音楽にはまったくハマれない可哀想な耳になってしまったようなので、こうした方面に新たなステップを踏み出して行きたくなる。 あと、カール・クレイグって名前だけは聞いたことあったけど、超カッコ良い~、と思った。学生時代、ニューウェーヴ大好きなヤツは周りにいたけれど、こういうのを聴いている人はいなかった。そういう友人と出会ってたら、今とは随分聴いている音楽が違っただろうなぁ、というほどに、カール・クレイグの音は自分のツ...

2011年7月17日に開催されるクラブイベント「現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」のフライヤーができました

フライヤーは ナナタさん に依頼しました。来月、都内の現代音楽関連のイベントで配ったりすると思います。もらってあげてください。 イベント詳細「夜の現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」

リヒテル――間違いだらけの天才

 スヴャトスラフ・リヒテルは不思議なピアニストだ。初めて彼のピアノを友達の家で聴いたとき、スタインウェイの頑丈なピアノですらもブッ壊してしまうんじゃないかと心配になるぐらい強烈なタッチとメトロノームの数字を間違えてしまったような速いテンポで曲を弾ききってしまう演奏に「荒野を時速150キロメートルで疾走するブルドーザーみたいだな」と率直な感想を持った。そういう暴力的とさえ言える面があるかと思えば、深呼吸するみたいに音と音の間をたっぷりとり、深く瞑想的な世界を作りあげるときもある。そのときのリヒテルの演奏には、ピンと張り詰めた緊張感があり、なんとなくスピーカーの前で正座したくなるような感覚におそわれる。  「荒々しさと静謐さがパラノイアックに共存している」とでも言うんだろうか。彼が弾くブラームスの《インテルメッツォ》も「間奏曲」というには速すぎるテンポで弾いているけれど、雑さが一切ない不思議な演奏。テンポは速いのに緊張感があるせいかとても長く感じられ、時間感覚をねじまげられてしまったみたいに思えてくる。かなり「個性的」な演奏。でも「ああ、こんな風に演奏しても良いのか……」と説得されてしまう。リヒテルの強烈な個性の前に、他のピアニストの印象なんて吹き飛んでしまいそうになる。  気がついたら好きなピアニストの一番にリヒテルあげるようになってしまっていた。個性的な人に惹かれてしまう。こういうのは健康的な趣味だと思うけど、自分でピアノを弾いている人の前で「リヒテル好きなんだよね」というと「あーあ、なるほどね」と妙に納得されるような、変な顔をされることがあるので注意。 スクリャービン&プロコフィエフ posted with amazlet on 06.09.13 リヒテル(スビャトスラフ) スクリャービン プロコフィエフ ユニバーサルクラシック (1994/05/25) 売り上げランキング: 5,192 Amazon.co.jp で詳細を見る  リヒテルという人は、ピアニストとしてだけ語るには勿体無いぐらいおかしな逸話にまみれている。ピアノ演奏もさることながら、人間としても「分裂的」っていうか、ほとんど病気みたいな人なのだ(それが天才の証なのかもしれないけれど)。「ピアノを弾くとき以外はロブスターの模型をかたときも手放さない」だとか「飛行機が嫌いすぎて、ロシア全...