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宮藤官九郎監督作品『少年メリケンサック』




少年メリケンサック オリジナル・サウンドトラック
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 宮崎あおいが可愛い……という2時間を楽しむ映画みたいなもので、それ以外はよくわからなかった……が、本当に主演女優である宮崎あおいがすごくて「ああ、役に入り込むというのはこういう感じなのだなぁ」と思った。大袈裟な喩えを出すならば、もはやトランス状態に入った巫女という感じがし、まったく性格は異なるけれども昨年『ダークナイト』に出演していたヒース・レジャーのジョーカーを彷彿させるような鬼気迫る演技である。彼女の一挙手一投足が自然なのだ。演技である、ということを忘れさせるぐらいに。そして、とにかく可愛い、と。映画は決してつまらないわけではなかったけれども、爆発的に笑える箇所や物語の盛り上がりには欠け、そういうわけで「宮崎あおい可愛いなぁ……」とクスクスという笑いが持続的に展開される感じで2時間が終わる。心に留まるような映画ではないのであろう。悪くない。とても上から目線で言ってしまうとそういうことである。





 音楽は向井秀徳。これはなかなか良かった。「向井ってこんな曲も書けるのかぁ……」ととても歓心させられるところがいくつかあり(BUMP OF CHICKENみたいな曲を提供してるのには驚いた。ギターの音はあきらかに“あの”テレキャスターの音なのでとても面白い)、また、向井秀徳の嗜好が伝わってくるような音楽がサウンドトラックで使用されている。強烈なダブであったり、エキセントリックな打ち込み祭囃子であったり、彼のファンであらばニヤリとさせられるところだろう。私はこの映画を観て「意外に器用なアーティストなんだなぁ」と思ったりした。



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 些細なところでは、劇中で宮崎あおいがハンディカメラで撮影しているバンドのドキュメンタリ映像(一応、メタフィクション風の構造になっているのだが、この構造がうまく機能していない感じもする)のなかに映る遠藤ミチロウ(彼は物語の登場人物としても出演している)が相変わらずカッコ良くてちょっと感動した。





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